事業や店舗の採算性をチェックするには?貢献利益の計算方法について
- 中小企業診断士 田村雅紀
- 2024年11月11日
- 読了時間: 6分
更新日:4月16日
はじめに
事業や店舗運営において、収益を上げるためには、それぞれの事業や店舗がどれだけの利益を生み出しているかを把握することが不可欠です。複数の事業を展開する企業や、チェーン展開を行う店舗運営者にとっては、各事業・店舗の採算性を分析することで、効率的な経営判断が可能になります。特に、貢献利益(または貢献利益額)という指標は、各事業や店舗の収益性を評価する際に役立つ指標です。本記事では、貢献利益の概要や計算方法、採算性をチェックするための手法と注意点について詳しく説明します。
1. 貢献利益とは?

貢献利益とは、売上高から変動費と直接固定費を引いた利益のことです。具体的には、商品やサービスを販売するたびに増加する費用(材料費、製造コスト、販売手数料など)の変動費と、特定の商品や店舗に直接かかる固定的な費用(例:人件費、家賃、広告費など)の直接固定費を、売上高から引いた額が貢献利益となります。貢献利益は、主に「固定費の回収」と「利益の確保」に使われるため、企業全体や各事業部門、店舗の収益性を確認するうえで重要な指標となります。
1-1. 貢献利益の計算方法
貢献利益は、以下の計算式で求めることができます。
貢献利益=売上高 − 変動費 - 直接固定費
たとえば、売上高が100万円、変動費が60万円、直接固定費が10万円である場合、貢献利益は30万円となります。この30万円は、企業全体の利益に貢献している利益であるということになります。

1-2. 貢献利益率
貢献利益率は、貢献利益を売上高で割ることで算出でき、収益性をパーセンテージで表すことができます。
貢献利益率=貢献利益/売上高×100
この指標は、各事業や店舗が売上に対してどれだけの貢献利益を上げているかを評価する際に活用されます。
2. 単体事業の採算性を確認する方法
企業が複数の事業を展開している場合、個々の事業が全体の利益にどの程度貢献しているかを知ることが重要です。以下の手順で単体事業の採算性を確認できます。
2-1. 各事業の収益・費用の分類
最初に、各事業の収益と費用を、変動費と固定費に分けます。変動費は売上の増減に伴い変動する費用であり、固定費は売上の増減に関係なく発生する費用です。この分類により、事業ごとの貢献利益を正確に把握できます。
2-2. 貢献利益の計算
各事業の貢献利益を計算し、固定費の回収状況や利益の確保状況を確認します。貢献利益が正であれば、少なくとも変動費以上の収益が確保できていることを示し、採算性があると判断できます。
2-3. 採算ラインの確認
固定費を上回る貢献利益を上げているかどうかを確認します。これにより、各事業が採算ラインを超えているかどうかを判断できます。
3. 店舗単体の採算性を確認する方法

チェーン展開を行っている企業の場合、各店舗が採算性を確保しているかどうかの把握が求められます。以下に店舗単体の採算性を確認する具体的な手順を紹介します。
3-1. 店舗ごとの売上・費用の把握
各店舗の売上や変動費、固定費を明確に分け、店舗ごとの収支を把握します。売上が変動しやすい業種の場合は、過去の売上データも参考にして変動費の割合を推定します。
3-2. 店舗ごとの貢献利益計算
売上から変動費を引くことで、店舗単体の貢献利益を求めます。この貢献利益がプラスであれば、固定費に貢献できていることを意味し、一定の収益性があると判断できます。
3-3. 固定費カバー率の確認
各店舗が固定費をカバーし、採算ラインに達しているかを確認します。採算性がない店舗が多い場合、経営資源の見直しや店舗運営の改善が必要となります。
4. 採算性を判断する際の注意点
貢献利益を用いて採算性を判断する際には、以下の点に注意する必要があります。
4-1. 固定費の配分方法
固定費は各店舗や事業に直接かかるものではなく、全体で発生するため、特定の方法で分配する必要があります。固定費の配分方法によっては、貢献利益の数値に影響を与え、正確な採算性評価が難しくなる可能性があるため、適切な配分基準を設定することが重要です。
4-2. 変動費の変動要因
変動費は原価や材料費など、外部の要因に左右される部分もあります。市場の変動や仕入れコストの上昇などで変動費が増えると、貢献利益が減少し、採算性に影響を及ぼすため、定期的な見直しが必要です。
4-3. 季節要因や地域要因の影響
特に店舗運営においては、季節的な売上変動や地域の特性が採算性に影響します。地域ごとの需要や季節要因を考慮しないと、店舗の本来の収益力を見誤る可能性があります。
4-4. 長期的視点での採算性の確認
事業や店舗の採算性は短期間のデータだけで判断するのではなく、長期的な収益性の動向も把握する必要があります。短期的には赤字であっても、将来の成長が期待できる場合には、その事業を継続する判断も重要です。
5. 採算性向上のための施策
採算性を向上させるための具体的な施策についても考慮する必要があります。以下は、貢献利益の改善を目指すいくつかの手法です。
5-1. 販売単価の見直し
販売単価を上げることにより、売上増加と貢献利益の向上を図ります。ただし、価格を上げることで顧客の購買意欲が減少する可能性もあるため、需要や競合状況を見極めた適切な価格設定が求められます。
5-2. 変動費の削減
材料費や物流費などの変動費を削減することで、貢献利益を増やすことが可能です。仕入れ先の見直しや在庫管理の効率化など、経費削減の方法を見つけることが効果的です。
5-3. 販売量の増加
販売量を増やすことも貢献利益の増加に直結します。プロモーション活動の強化やターゲットの拡大などを通じて、売上を伸ばし、貢献利益を確保するための施策が考えられます。
5-4. 固定費の最適化
固定費の削減は、全体的な採算性の改善に寄与します。人件費や施設費などの固定費が適切に配分されているか見直し、必要に応じてコスト削減の取り組みを進めます。
6. まとめ
貢献利益を活用して事業や店舗の採算性を評価することは、経営判断の質を向上させるために不可欠です。貢献利益は、売上から変動費を差し引いた利益であり、固定費のカバーや収益性を評価する指標となります。単体事業や店舗ごとの採算性を把握し、適切な改善策を講じることで、全体の収益性を向上させることが可能です。
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