温暖化ガス排出量取引制度で参加義務の対象となる企業とは？2026年度本格導入に向けた最新情報と対策

中小企業診断士　田村雅紀
2024年9月3日
読了時間: 5分

温暖化ガス排出量取引制度は、企業や組織が排出する温暖化ガスの総量を管理し、削減を促進するための市場ベースのメカニズムです。この制度の目的は、地球温暖化の進行を抑制し、持続可能な社会を実現することにあります。具体的には、各企業に対して一定の排出枠を割り当て、枠を超えて排出した場合には、他の企業から排出枠を購入する必要があります。この排出枠の取引が、制度の中心的な仕組みとなります。

1. 2026年度からの本格導入

日本政府は2026年度から温暖化ガス排出量取引制度を本格導入することを発表しました。この導入は、パリ協定に基づく日本の気候変動対策の一環として位置づけられており、温室効果ガスの削減を加速させることが期待されています。

本制度の導入により、企業は温暖化ガスの排出量を厳格に管理する必要があります。政府が設定した排出枠を超える排出を行った場合、その企業は他の企業から排出枠を購入しなければならなくなります。一方、排出枠内で運営し、余剰分を削減した企業は、その余剰分を市場で売却することができ、収益を得ることが可能です。

2. 参加義務の対象となる企業とは？

温暖化ガス排出量取引制度の参加義務の対象となる企業は、主に以下のような基準に基づいて選定されます。

2-1. 温暖化ガス排出量が一定以上の企業

まず、企業が参加義務の対象となる最も重要な基準は、その企業の温暖化ガス排出量です。具体的な基準値は、政府の指針に基づいて決定される予定ですが、一般的に大規模な製造業、エネルギー供給業、化学工業など、温暖化ガスの排出量が多い企業が対象となると考えられます。

たとえば、年間のCO2排出量が10万トン以上の企業は、参加義務の対象となる可能性が高いです。これには、石油精製、鉄鋼、セメントなど、エネルギー集約型の産業が含まれるでしょう。

2-2. 特定の業種に属する企業

温暖化ガス排出量が多くなくても、特定の業種に属する企業も参加義務の対象となる場合があります。たとえば、電力会社やガス供給業者など、エネルギー関連の事業者は、排出量の多寡に関わらず、制度の対象となる可能性があります。これらの業種は、社会全体のエネルギー消費と温暖化ガス排出の大部分を占めているため、規制の対象となることが重要です。

2-3. 政府が指定するその他の基準

さらに、政府は参加義務の対象となる企業を指定する際に、温暖化ガス排出量や業種以外の基準を設定する可能性があります。これには、企業の規模、従業員数、売上高などが考慮される場合があります。例えば、一定の売上規模を持つ企業や、全国的に展開する大企業は、温暖化ガス排出量に関わらず参加義務を負うことがあり得ます。

3. 制度導入による企業への影響

この制度の導入により、参加義務のある企業は、温暖化ガス排出量の削減に向けた取り組みを強化する必要があります。以下に、制度導入による企業への具体的な影響をいくつか挙げます。

3-1. コストの増加

温暖化ガス排出量が政府の設定する枠を超えた場合、企業は追加の排出枠を市場で購入しなければなりません。これにより、排出量の多い企業では、運営コストが増加する可能性があります。そのため、排出量を削減するための技術投資や運用改善が求められます。

3-2. 競争力への影響

温暖化ガス排出量の削減に成功し、余剰排出枠を売却できる企業は、競争力を高めることができます。一方で、削減が進まない企業は、追加コストが競争力を削ぐ要因となり得ます。そのため、企業間での温暖化ガス排出管理の優劣が、競争力の差に直結する可能性があります。

3-3. レピュテーションの向上

温暖化ガス排出量を削減することで、企業の環境意識の高さが評価され、レピュテーション（評判）が向上することが期待されます。持続可能性に配慮する企業は、顧客や投資家からの信頼を得やすくなり、長期的な成長が見込まれます。

4. 参加義務企業が取るべき対応策

参加義務が課される企業は、以下のような対応策を取ることが推奨されます。

4-1. 排出量の正確な把握と管理

まず、企業は自身の温暖化ガス排出量を正確に把握し、継続的に管理するシステムを構築する必要があります。これにより、排出量削減に向けた具体的な計画を立てることが可能になります。

4-2. 排出削減技術の導入

排出量を削減するための技術投資は避けて通れません。再生可能エネルギーの利用拡大や、エネルギー効率の向上、クリーン技術の導入などが有効です。これにより、長期的なコスト削減と環境負荷の低減を両立させることができます。

4-3. 内部の意識改革

温暖化ガス排出量削減に向けた取り組みは、経営層だけでなく、全社員の意識改革が重要です。社員一人ひとりがエネルギー消費を抑え、効率的な業務運営を心がけることが、全体の排出量削減に寄与します。

4-4. 排出枠取引の活用

余剰排出枠を市場で売却することで、収益を得ることが可能です。また、必要に応じて排出枠を購入することで、規制に対応しつつ、柔軟な運営が可能となります。市場の動向を把握し、適切なタイミングで取引を行うことが重要です。

まとめ

温暖化ガス排出量取引制度は、企業に対して温暖化ガス排出量の削減を強く促す新たな枠組みです。2026年度からの本格導入に向けて、参加義務の対象となる企業は、今から準備を進める必要があります。具体的には、排出量の正確な把握、削減技術の導入、内部の意識改革、そして排出枠取引の活用が求められます。この制度は、単なるコスト負担だけでなく、競争力の向上や企業価値の向上にもつながる可能性があるため、積極的な取り組みが重要です。