広島県が転出超過に直面する背景と、魅力ある企業づくりに向けた経営者の役割
- 中小企業診断士 田村雅紀
- 2024年9月10日
- 読了時間: 8分
更新日:4月22日
広島県は、総務省が発表する住民基本台帳人口移動報告によると、2023年に転出超過が1万1409人と全国で最も多く、3年連続で全国ワースト1位となりました。
若者や働き盛りの人々が県外に流出し続ける現状は、地域経済や企業経営に深刻な影響を与えています。広島県の人口減少が加速する背景には、仕事やライフスタイルの魅力に関する問題が絡んでいます。
本記事では、なぜ広島県が転出超過に直面しているのか、その要因を分析し、経営者が若者にとって魅力ある企業を作るためにどのような施策ができるのかについて解説していきます。
1. 広島県の転出超過の背景

1-1. 就業機会の不足
広島県において、特に若者が直面している大きな問題の一つは、就業機会の不足です。広島県内には、製造業や農業などの伝統的な産業が強い一方で、情報技術やクリエイティブ産業といった、都市部で需要の高い職種が比較的少ないです。そのため、高度な専門職を求める人々やキャリア志向の若者は、大都市での就職を希望し、県外へと流出してしまいます。
特に東京、大阪、福岡といった大都市圏に移住する傾向が見られ、広島県内でのキャリアパスの選択肢が少ないことが、転出の一因とされています。
1-2. 都市部とのライフスタイルの違い
広島県の転出超過は、ライフスタイルの選択肢にも関係しています。特に都市部では、エンターテインメントや交通、教育機関、医療施設の充実度が高く、生活の利便性が高いです。
一方で、地方都市である広島では、これらの面で大都市に比べて劣る部分があり、若者が自分のライフスタイルに合った環境を求めて移住する傾向があります。
また、デジタルノマドやリモートワークが普及する中で、場所にとらわれない働き方を選ぶ人々にとっても、広島は魅力的な環境を提供できていないのが現状です。
1-3. 教育機関の選択肢の少なさ
若者が県外に出る理由の一つとして、教育機関の選択肢が限られていることが挙げられます。
大学進学や専門学校への進学を考える際、広島県内だけでは希望の教育を受けられない場合、県外への進学を選択することになります。その後、県外での就職を希望するケースも多く、これが転出超過に繋がっています。
1-4. 地域の活力不足
若者を中心とした流出は、地域全体の活力低下に繋がります。地域の人口減少が進むと、消費活動も低迷し、地域経済が縮小するという悪循環が発生します。
活力を失った地域は、さらに若者の流出を促進することになり、転出超過が加速するのです。
2. 広島県の転出超過が、企業に与える影響

2-1. 人材不足の深刻化
転出超過が最も顕著に影響を与えるのは、企業の人材確保に関する問題です。特に、若者や高いスキルを持つ人材が大都市圏へ移住することにより、広島県内の企業は優秀な人材を確保するのが難しくなっています。
中小企業を中心に、労働力不足が深刻化し、生産性の低下や新規プロジェクトの推進が困難になることが懸念されます。さらに、人材不足は既存の従業員に対する負担を増やし、過重労働による離職やメンタルヘルスの問題にもつながりかねません。
2-2. イノベーションの停滞
若者が持つ新しい視点や技術的スキルは、企業のイノベーションに大きく貢献します。特にデジタル技術や新しいマーケティング手法に精通した若者は、企業の競争力を向上させる要因となります。
しかし、転出超過が進行すると、そうした若手の人材が流出し、企業内のイノベーションや技術革新が停滞するリスクが高まります。結果として、競合他社との競争力を失い、市場での存在感が薄れていく可能性があります。
2-3. 地元経済の活力低下
転出超過によって若者が減少すると、地元の消費活動が鈍化し、地域経済全体に悪影響が及びます。企業にとっては、若者をターゲットにした商品やサービスの需要が減少し、新規市場の開拓が困難になることがあります。
特に、広島県内で事業を展開する中小企業は、地元住民の購買力に依存しているため、転出超過が続くことで経営の基盤が脆弱になる可能性があります。
2-4. リーダーシップの欠如
転出超過が進行すると、企業内での次世代リーダーの育成が困難になります。若者が流出することによって、将来的に経営層や管理職に昇進するべき人材が不足し、長期的な企業運営に支障をきたすことが考えられます。
企業の持続可能な成長を支えるためには、次世代のリーダー育成が不可欠であり、転出超過はこの重要なプロセスに大きな影響を与えるでしょう。
2-5. コミュニティとの結びつきの希薄化
地域に根差した企業にとって、地元のコミュニティとの連携は非常に重要です。しかし、転出超過が続くと、企業と地域社会のつながりが薄れていきます。
若者が減少すると、地元イベントやボランティア活動などに参加する機会が少なくなり、地域全体の連帯感やサポート体制が弱まる可能性があります。結果として、企業が地域社会における役割を十分に果たせなくなることが懸念されます。
2-6. 採用コストの増大
広島県での転出超過により、県内での採用が難しくなると、企業は外部から人材を呼び込む必要があります。しかし、他地域からの採用には高いコストが伴います。移住支援や引っ越し費用の負担、広報活動の強化などが必要となり、採用コストが増大します。
また、広島県内での労働市場が縮小することで、企業同士の人材争奪戦が激化し、優秀な人材を引き留めるために給与や福利厚生の改善を迫られることにもなります。
3. 魅力ある企業づくりに向けて経営者ができること

転出超過を防ぐためには、広島県内の企業が若者にとって魅力的な存在となることが必要です。企業が経営者として取り組むべき具体的な施策をいくつか挙げていきます。
3-1. 柔軟な働き方の導入
現代の若者は、ワークライフバランスを重視する傾向が強まっています。従来の8時間労働や固定勤務に縛られず、リモートワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方を導入することは、若者にとって魅力的な企業となるための一つの手段です。
特にリモートワークの普及に伴い、都会の企業と競争力を持つためには、働く場所や時間の自由度を高めることが重要です。これにより、若者が広島で生活しながらも、キャリアを追求できる環境が整います。
3-2. キャリアパスの明確化と支援
若者が転職や転出を考える際、重要視するのは自分のキャリアが成長できるかどうかです。広島県内の企業は、従業員に対して長期的なキャリアパスを明確に示し、スキルアップや教育支援を積極的に行うことで、若者にとって魅力的な職場環境を提供できます。
社内研修や外部講師を招いた講習会の実施、資格取得の補助など、若者が成長できる機会を提供することで、他県への転出を防ぎ、広島でのキャリア形成を促進します。
3-3. 地域に根差した取り組みとSDGsの推進
企業が地域貢献活動や持続可能な開発目標(SDGs)を重視することは、若者の支持を得るための重要な要素です。若者の多くは、環境や社会への意識が高く、地域に貢献する企業に魅力を感じます。
例えば、地域の環境保護活動への参画や、地元産業を支援するプロジェクトに積極的に取り組むことが、企業の価値を高めるポイントとなります。また、SDGsに関連した取り組みを推進することで、企業の社会的な責任感をアピールし、若者にとって働きがいのある企業となることができます。
3-4. オープンでフラットな企業文化の形成
企業内のコミュニケーションや意思決定のプロセスが閉鎖的であったり、年功序列が強い文化は、若者にとって魅力的ではありません。オープンでフラットな組織文化を築き、意見やアイデアが尊重される環境を提供することが重要です。
これには、定期的な社員間の意見交換会や、ボトムアップ型のプロジェクト推進の仕組みなどが考えられます。若者が自分の意見やアイデアが尊重され、実際に企業に影響を与えることができると感じる職場環境は、彼らにとって大きな魅力となります。
3-5. 地域独自の強みを生かした事業展開
広島県は、観光資源や地元産業に恵まれた地域です。企業がこれらの地域の強みを活かした新規事業や地域活性化に寄与するプロジェクトを展開することで、地域との結びつきを強め、若者が地域に誇りを持つきっかけを提供できます。
例えば、広島ならではの観光資源や特産品を活用した商品開発や、地域の文化を世界に発信する取り組みなど、地域独自の強みを活かすことで、若者が広島に留まる動機を作ることができます。
3-6. 人材の多様性を尊重し、インクルージョンを促進する
企業が魅力的であるためには、多様性とインクルージョン(包摂性)の促進が不可欠です。さまざまな背景や価値観を持つ人材が活躍できる環境を整えることで、企業はより豊かなアイデアやイノベーションを生み出すことができます。
性別、国籍、年齢、障害の有無に関わらず、誰もが平等に活躍できる職場を構築することは、企業の競争力を高めるとともに、若者にとって「働きたい」と思わせる要因となります。
4. まとめ
広島県の転出超過は、企業にとって深刻な問題であり、特に人材確保や企業の成長に直接的な影響を与えています。人材不足やイノベーションの停滞、地元経済の活力低下といった問題に直面することで、企業は競争力を失い、地域社会とのつながりも弱まる危険性があります。こうした課題に対応するためには、企業が地域に根差した魅力的な職場環境を提供し、若者が広島に留まりたいと思えるような環境を整えることが急務です。
経営者は、柔軟な働き方やキャリアアップの機会を提供し、社会的意義のある企業活動を推進することで、若者にとって魅力的な企業を目指すべきです。これにより、転出超過を防ぎ、持続可能な地域経済の発展に寄与することができます。
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