利益が出ているのに…黒字倒産のリスクと、経営者が今すぐ見直すべきポイント
- 中小企業診断士 田村雅紀

- 2024年9月5日
- 読了時間: 7分
はじめに
企業が利益を上げることは、健全な経営の証拠であり、多くの経営者が目指す目標です。しかし、利益を出しているにもかかわらず倒産に至る、いわゆる「黒字倒産」という現象があります。このような事態は、経営者や関係者にとって非常にショックであり、なぜそんなことが起こるのか理解することが重要です。本記事では、黒字倒産の背景と、その原因について詳しく解説し、どのようにしてこのリスクを回避するかについて説明していきます。
1. 黒字倒産とは?

まず、黒字倒産とは何かを明確にしましょう。黒字倒産とは、企業が会計上では利益を計上しているにもかかわらず、資金繰りがうまくいかずに倒産してしまう状況を指します。利益はあるが、現金が足りないために支払いができなくなるというのが黒字倒産の主な特徴です。通常、倒産というと赤字が原因であると思われがちですが、黒字倒産は全く逆のケースです。
2. 黒字倒産の主な原因
黒字倒産に至る原因は複数ありますが、主に以下のような要因が挙げられます。
2-1. 資金繰りの問題
企業のキャッシュフローが悪化すると、たとえ利益を上げていても支払いが滞る可能性があります。特に、売掛金の回収が遅れたり、支払いサイトが長期化したりすることで、手元の資金が不足することがあります。これにより、仕入れ先への支払いや従業員の給与支払いができなくなり、最終的に倒産に追い込まれることがあります。
2-2. 過剰な設備投資
企業が成長を目指して大規模な設備投資を行うことはよくあります。しかし、投資の回収が思うように進まない場合、その投資が資金繰りを圧迫することがあります。特に、借入金による投資の場合、利息の支払いが重荷となり、キャッシュフローが悪化することが考えられます。
2-3. 在庫の過剰
過剰な在庫は、企業の資金を固定してしまい、キャッシュフローの流動性を阻害します。在庫が売れ残ると、現金化が遅れるため、資金繰りに問題が生じます。特に、季節商品や流行品の場合、売り時を逃すと在庫が不良資産化し、さらに資金が滞るリスクが高まります。
2-4. 売上の偏り
特定の大口顧客に依存している企業は、その顧客からの入金が遅れたり、取引が停止されたりすると、一気に資金繰りが悪化するリスクがあります。このような依存度の高いビジネスモデルは、黒字倒産のリスクを高める要因となります。
2-5. 不良債権の増加
企業が取引先からの支払いを回収できない場合、その分の資金が滞り、キャッシュフローに悪影響を与えます。不良債権が増えると、企業の資金が回らなくなり、結果的に黒字倒産につながる可能性があります。
3. 黒字倒産のリスクを避けるための対策

黒字倒産を防ぐためには、以下のような対策が有効です。
3-1. キャッシュフローの見える化
まず、企業の現金の流れを明確に把握することが重要です。月次のキャッシュフロー計算書を作成し、入金と出金のタイミングを詳細に管理することで、資金繰りの状況を常に把握できます。特に、売掛金の回収予定や、支払い予定の確認を怠らないようにし、常に数ヶ月先の資金状況を見通すことが求められます。
3-2. 売掛金の管理徹底
売掛金の回収が遅れると、資金繰りに大きな影響を及ぼします。売掛金の管理を徹底し、定期的に回収状況を確認することで、回収漏れや遅延を防ぐことができます。必要に応じて、回収を促す仕組みや、入金サイトを短縮する交渉も検討しましょう。
3-3. 適切な在庫管理
在庫の適正管理は、特に製造業や小売業で重要です。過剰在庫を抱えることはキャッシュフローを圧迫するため、適切な在庫管理システムを導入し、需要予測をもとに在庫をコントロールすることが必要です。また、売れ残りや不良在庫のリスクを最小限に抑えるための対策も講じるべきです。
3-4. 資金調達の多様化
資金調達の手段を多様化することで、一時的な資金不足を補うことができます。例えば、銀行からの融資だけでなく、投資家からの資金調達やクラウドファンディングなど、多様な資金調達方法を検討することが重要です。また、与信枠の拡大や、金融機関との良好な関係を維持することもリスク回避につながります。
3-5. 経営指標の定期的なチェック
経営指標を定期的にチェックし、企業の財務状況を把握することが重要です。特に、キャッシュフロー、自己資本比率、売掛金回転率などの指標を定期的に確認し、問題が発生した場合には早期に対策を講じることが求められます。
4. 黒字倒産の事例
ここで、実際に黒字倒産に陥った企業の事例をいくつか紹介します。これにより、どのような状況で黒字倒産が発生するのか、具体的なイメージを持っていただけるでしょう。
4-1. 事例1:大手小売業者の黒字倒産
ある大手小売業者は、売上が好調で利益も出していましたが、過剰な店舗展開と在庫の増加により資金繰りが悪化しました。特に、新規店舗の立ち上げに多額の資金を投入したため、キャッシュフローが圧迫され、結果として黒字倒産に至りました。この事例では、資金繰りの見通しが甘く、過度な拡大戦略が黒字倒産の引き金となりました。
4-2. 事例2:製造業者の黒字倒産
ある製造業者は、主力製品の売上が好調であったため、過剰な設備投資を行いました。しかし、投資の回収が遅れ、さらに主力製品の需要が突然減少したことで、売上が急減。結果として資金繰りが悪化し、黒字倒産に至りました。このケースでは、外部環境の変化に対する柔軟な対応ができなかったことが原因です。
5. 黒字倒産を防ぐための経営戦略

黒字倒産を防ぐためには、以下のような経営戦略が有効です。
5-1. リスク管理の徹底
黒字倒産を防ぐためには、リスク管理を徹底することが必要です。特に、資金繰りリスクに対する認識を高め、リスクが顕在化する前に対策を講じることが求められます。リスク管理の一環として、シナリオプランニングを行い、さまざまなリスクシナリオに対応できる体制を整えることが重要です。
5-2. 顧客基盤の多様化
特定の顧客に依存することは、黒字倒産のリスクを高める要因となります。顧客基盤を多様化し、売上が特定の顧客に偏らないようにすることで、リスクを分散できます。新規顧客の開拓や、異なる市場への進出などを通じて、顧客基盤を広げることが重要です。
5-3. フレキシブルな経営判断
経営環境は常に変化しており、その変化に柔軟に対応することが求められます。市場の動向や競合他社の動きに敏感に反応し、必要に応じて経営戦略を見直すことが重要です。特に、設備投資や新規事業の立ち上げなど、大きな決断を行う際には、リスクを十分に考慮した上でフレキシブルな判断を行う必要があります。
5-4. 健全な財務体質の維持
黒字倒産を防ぐためには、健全な財務体質を維持することが重要です。過度な借入金に頼らず、自己資本を厚くすることで、外部環境の変化に対する耐性を高めることができます。また、適切な借入金の返済計画を立て、財務の健全性を保つことが重要です。
6. まとめ
黒字倒産は、利益を上げている企業でも直面する可能性がある深刻なリスクです。資金繰りの管理不足や過剰な設備投資、在庫の過剰、特定顧客への依存など、さまざまな要因が重なることで発生します。このリスクを回避するためには、キャッシュフローの管理を徹底し、経営指標を定期的にチェックすることが求められます。また、リスク管理を強化し、フレキシブルな経営判断を行うことで、黒字倒産のリスクを最小限に抑えることができます。
企業経営において、利益を上げることはもちろん重要ですが、それと同時に、資金繰りや財務の健全性を常に意識し、バランスの取れた経営を目指すことが成功への鍵となります。
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